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われら隣人
第511回
和出野 充洪(全盲のアマチュア声楽家)

 10月28日、自ら主宰する声楽グループ「ヴォーチェ・アプリート」が、毎年開催している定期コンサートを三鷹市内で開く。

 13回目のコンサートを案内するチラシには、構成と演出も手掛けるバリトン歌手が「全盲」であることや、障害者と健常者が一緒に歌うグループであるとの記載はない。さらに、チラシと公演プログラムに使われているフィレンツェの風景写真を撮影したのが、その全盲歌手であるとの説明もない。

 このチラシを手にして会場に向かった人は、ステージを目の前にして、ようやく事実を知って驚くかもしれない。

 が、人を驚かすために歌うつもりはなく、人を楽しませるために、その結果として自分が楽しくなるために、それだけのために歌ってきた。

全盲だからではなく 楽しませたいから歌う

 地元の「田無混声合唱団」にも所属するアマチュア声楽家の肩書だけでなく、視覚障害者が通う専門学校、ヘレンケラー学院(新宿区)の講師や、視覚障害者の旅行コーディネーターといった肩書き持つ。が、いちばん自分らしいと思える瞬間があるのは、「歌う大道芸人」であるときだ。

 高校時代は、多摩地区で敵なしだった強豪の合唱部に所属。歌う喜びを知った。しかし、視力が徐々に衰え、20歳のころには全盲となり、声楽家の道をあきらめる。生活の糧を得るため、マッサージ師の道を歩みだしたのだった。

 今も光をわずかに感じる程度で、目が見えないことに変わりはない。が、40歳を過ぎて再び歌いだしたのには、もうひとつのライフワークといえる「旅」が関係している。

 20代のとき、友人が暮らすフランスのパリに2カ月間滞在し、それ以来、旅することが生活の一部になった。

 風景が見えなくとも、街の雰囲気やにおい、それに音を感じることができる。だから、今でも年に1度は海外、とくにヨーロッパ旅行を楽しむ。しかも、行程が決められた団体のパックツアーではなく、すべて個人または友人数人との自由旅行だ。

 92年8月にもイタリアを中心に旅した。そのときローマで、「スペイン階段の最上段のテラスで歌ってみたい」というかねての思いを実行に移したのだ。同行した友人と「オー・ソレ・ミオ」を二重唱し、見ず知らずの人から拍手喝采を受けた。

 これが、声楽家を目指した若いころの気持ちに再び火を付けることになった。帰国してすぐに声楽トレーニングを開始。現在まで続く週1度のレッスンに通いだした。

 そして、2年後。音楽の都ウィーンで、本格的な大道芸人デビューを果たす。

 旧市街のシュテファン大聖堂前広場で3曲を歌い上げると、目の前に置いた帽子が満杯になるほどのコインや札が投げ込まれた。

 このときは無伴奏だったが、その後、友人に譲り受けた中古アコーディオンを練習し、世界中の大道芸人が集う広場に勇んで出かけるようになる。

 ミュンヘン、アムステルダム、ブリュッセル、ベネツィアなど、どこへ行っても、イタリア語やドイツ語の原語で、カンツォーネやオペレッタを歌い、拍手喝采と「おひねり」を受ける喜びを味わってきた。なかには、「パバロッティ2世だ!」と声を掛けられることもあり、日本とは違って、大道芸が文化として認められていることに喜びを感じる。

 ひとり旅のときはアコーディオンを持参できないので、出たとこ勝負となる。モナコではギターやマンドリンを抱えた現地の若者たちと共演。ロシア人のテノール歌手と合唱したことも、イタリア人の流しのアコーディオン弾きの伴奏で歌ったこともある。

 これと並行して、94年にヴォーチェ・アプリート(イタリア語で、「開かれた声」の意味)を立ち上げた。

 メンバーに、視覚障害者も含まれるが、健常者と一緒にがんばろうとの趣旨からではなく、ただ「音楽で人を楽しませたい」という共通項を持つ者の集いとして考えている。

 28日のコンサートでは、シューベルト作曲の「冬の旅」から、「おやすみ」「幻」などをドイツ語で歌う。その後には、「華ひらく大正ロマン」と題して、関東大震災までの東京で人気を博した浅草オペラを披露する。レコードや楽譜も散逸した曲を丹念に拾い集め、「コロッケの歌」や「星は光りぬ」を合唱に仕上げた。

 これらのステージを誰にも気軽に楽しんでもらいたいからと、経費を負担し、入場料は取らない。さらに、祝儀などをいっさい受け付けないという姿勢をかたくなに守る。

 「人を楽しませることが、自分にとっての楽しみ」だから、自らの障害を乗り越えるためにという気負いは、「さらさらない」。

 西東京市内の老人介護施設で毎月1回のボランティアコンサートを開くが、これも、「楽しませたい、楽しみたい」の延長線上にあるだけだと言って譲らない。


 ◇わでの・みつひろ  1946年1月17日、日の出町生まれ。都立国立高校卒。西東京市芝久保町4丁目在住。60歳。

 ヴォーチェ・アプリートの「第13回声楽コンサート」は、28日午後2時から三鷹市芸術文化センター(上連雀6丁目)で開かれる。入場無料。
 問い合わせは和出野宅(TEL 042―464―0493)へ。    【取材記者・木瀬貴吉】


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