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われら隣人
第512回
宍戸典雄(ボクシングジム会長)

 ジムを開いて26年になる。ここ2、3年は、体力増強、ストレス発散に通う中高年も増えているが、あくまで目標は、世界チャンピオン輩出。それも、単なる「世界一」ではない。

 「白井義男にしろ、ファイティング原田にしろ、昔の世界チャンピオンには品格があった。今は17階級もあり、日本が加盟している認定団体も2つあるが、昔は、7階級で、認定団体も1つだけ。チャンスは少なく、人間的に強くなければ、到底チャンピオンにはなれなかった。あの頃のような、誰からも尊敬されるチャンピオンを育てたい」【取材記者・谷 隆一】

夢追って生涯青春

 19歳になった翌日、そのとき働いていた建設業の親方の住まいを訪ね、テレビで、初めてボクシングをちゃんと見た。戦っていたのは矢尾板貞雄と、当時の世界チャンピオン、パスカル・ペレス。ノンタイトルの試合だったが、判定勝ちした矢尾板の姿を見ながら、自分の進む道はこれだ、と思った。162センチ、53キロの身に、階級制で戦うルールが何より魅力的に思えた。

 間もなく、矢尾板のいる中村ジムに入会。ジムに寝泊まりするほど、ボクシングに夢中になった。世界チャンピオンに王手をかけていた矢尾板が、後輩への気配りを忘れず、何かと声をかけてくれるのも、心にしみた。

 ただ、試合には出られなかった。視力が弱く、規定に達しなかったためだ。

 そんなある日、誰かが放り捨てていた雑誌をぱらぱらとめくり、「人生の3分の1の時間は寝ているのだから、残り3分の2こそが人生。そして、その半分は仕事に費やされる」といった文章を読んだ。その瞬間、「ジムを持とう」と心が決まった。人生の半分が仕事なら、好きなボクシングを仕事にしなければ――。

 日本ボクシング協会から、トレーナーの経験が15年必要と指導され、早朝から昼過ぎまで運送業、夕方はトレーナー、という生活に踏み切った。そして、1980年。支援者の後押しを受け、東村山市栄町にジムを開設。89年、小平市美園町に移転。

 好きなことを仕事にしたゆえの苦しみもあった。真剣に向き合うからこそ、選手を預かることの責任を痛感した。

 「ボクシングは、相手を倒すことが目的。目的を達成するために、互いの命が危険にさらされる。健やかな体をつくることが体育、スポーツ、という考えから言えば、ボクシングはスポーツではないんじゃないか」

 そんな迷いをへて、やがて、選手には、ボクシングの強さ以上に、人間として強くなることを求めるようになっていった。 礼節を重んじ、試合会場では、相手選手の入場にも、セコンド陣全員で拍手する。 

 ジムに入会生が来たときには、何かしら理由を見つけて、お願いをし、してくれた行為にお礼をする。頼むことが見つからなければ、近所の文具店までボールペンを買ってきてもらう。

 「ボールペンなんて、引き出しいっぱいにあるんだけどね。ありがとう、と入会生に言うために、ね」
 そうやって、姿勢を示す。

 しばらく来なくなった練習生には、精神的な負担にならないように、でも、忘れていないよ、と伝えるために、季節ごとに、はがきを出す。

 会員証には、くじけやすい若者の心を思って、「継続は力なり」と印刷している。ジムのポスターには「今に見ていろ、俺だって!」。

 さまざまなメッセージを、いろいろな形で伝えようとするのは、「形を装ってもダメ。内面が大事」という思いから。

 それは単なる願望ではない。ボクシングは、殴り合い、時に命を失う恐れもあるスポーツ。だからこそ、「心をきたえて、一瞬も気を抜かない精神力を身につけないと。フォームにこだわって、打つ練習ばかりしていてもダメ」と考えている。

 聞く耳を持たない選手は、有能でも辞めさせる。その反面、素直に聞く選手には、たとえ飲み込みが遅くとも、励まし続ける。「道は永い、しかし始めようではないか」といった、ケネディの言葉などを持ち出して。
 3年前に脳梗塞で倒れ、今も後遺症が残るが、情熱は消えない。選手だけでなく、自身に言い聞かすように、シャワー室の前に、サムエル・ウルマンの詩「青春」を飾る。

 青春とは人生のある期間ではなく、心の持ちかたを言う。
 たくましい意志、ゆたかな想像力、炎(も)える情熱をさす。
 安きにつく気持を振り捨てる冒険心を意味する。
 年を重ねただけで人は老いない。
 理想を失うとき初めて老いる。

                     (抜粋、作山宗久訳)

◇ししど・のりお 1940年1月、東京都生まれ、66歳。娘2人、孫5人がいるが、現在、東村山市で一人暮らし。
 小平シシドボクシングジム(TEL 042―345―0557、小平市美園町1の7の13)経営。
 公式ホームページ



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