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私の見解
戦争に耐える文化の力
学習サークル「語ろう会」会長  河野正知


 西東京市を拠点に20年続く学習サークル「語ろう会」会長の河野正知さん(88)は、戦時中、ビルマ(ミャンマー)で捕虜になった後、収容所で週2〜4日、演劇を公演した経験を持つ。戦後も、地域の文化イベントの実行委員を務めるなど、さまざまな形で、文化活動を続けている。文化とは人にとってどういうものなのか、考えを聞いた。【取材記者・谷 隆一】


 ――収容所で演劇が公演されたとは驚きです。

 「フィリピンなどは過酷だったらしいが、ぼくが過ごしたビルマは、その意味では恵まれていた。3カ所の収容所で約1年半過ごしたが、どこの収容所でも演芸があった。自然発生的に各々が書いた文章や絵を見せて回っていたのが始まりで、次第に、芝居をやらせろ、と盛り上がった。イギリス軍にかけあったら許可が出たので、土を盛り、防水のゴムのようなものを敷いて、舞台を作った。衣装やかつら、小道具、さらには、ブリキ缶でマンドリンなどの楽器も手作りした。演劇、漫談、ろう曲など、いろいろやった。ぼくはなぜか演芸部長に指名され、使役には行かず、そればかりやっていた」

 「演じるのは夜6時ごろからで、電球を連ねて、舞台照明にしていた。公演は週に2回くらい。最後の収容所は7000人くらいいる大所帯で、週4日くらい公演した。劇団も、10くらいあった。毎回、観客は1000人くらい集まったが、人気のある演目のときは、2000人以上にふくれた。客席は一分の隙もないほどで、女形の場面などでは、喜ぶ客席からタバコが乱れ飛んだ。検閲などは特になかった」

 ――行軍中も、短歌を書いていたそうですね。

 「学生時代からたしなんでいたこともあって、日記代わりにね。紙がないので、トイレの始末用に配給された厚手の紙を集めて、ノートを作ったりした。行軍中は、濡れないようにして、肌身離さず持ち歩いた。全員とは言わないが、ふだん書きものをしている人は、みんなそうしていた」

 ――持ち帰りたいということでしょうか。

 「ぼくは、行軍して早々に配給されていたガスマスクと鉄帽を捨てた。重くて邪魔だし、あんなもの、正面から弾が当たれば役に立たないと思ったから。死ぬときは死ぬ。書いたものも、ぼくが死ねば、永久に誰の目にも触れない可能性がある。そんなことは十分承知していた。ただ、死ぬことが目的ではない。生きて帰ることを恥とする教育があったが、ぼく自身は、一度も、そういう気持ちになったことはない。もちろん、逃げて生き残ろうとは思わなかったが、書き綴ったものを後で見直したいという欲求はあったし、死んだとしても、遺族に届けてほしい、という気持ちがあった」

 ――身を守る鉄帽などよりも、書いたものが大事だったんですか。

 「そう。収容所の暮らしでもそうだったが、文化活動によって、生きている意味をかみしめることができた。生きている証し、というか」

 ――現在は、学習サークル「語ろう会」の会長を務めるなど、地域での文化活動にも積極的にかかわっています。河野さんにとって、文化とは。

 「大きな視点で言えば、文化は人にとって、生きがいになる。そして、人の心を潤してくれる。軍隊にいて、心がすさんでいくなかでも、思いを書き留めたりすることで、意外と踏みとどまることができたように思う。文化活動というのは、あるいは、人と人との間に潤いを生むための、人間の本能的な行為なのかもしれない。地元でも、みんながいろいろなものに関心を持ち、根底に人間復興の考えを持って、もっと文化が広まればいいなあと思うよ」


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