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「なにもない町」の大自然を追って
その日も黒目川を散歩していて、青とオレンジの配色が鮮やかな小鳥が、水の上を飛んでいくのを見つけた。
まさか、とは思ったが、カワセミだった。
結婚して40年ほど東久留米市に住んできたが、自然の清流を好むカワセミが、地元に生息しているとはまったく知らなかった。
翌日、自宅にあったフィルム式の小型カメラを手に、再び川沿いを歩くと、特徴のある甲高い鳴き声が聞こえ、とっさにシャッターを切った。「きれいな姿が撮れた」と勢いこんで現像したが、そこに写っていたのは、米粒大のカワセミだった。
2年前のこの体験が、漫然と歩いていた日課を、自らの意志で歩くことへと一変させた。
カワセミの姿を美しく撮影したい。そして、地元の自然の豊かさを伝えたい――。その思いを実現するための工夫を始めたのだった。
まず、デジタルカメラを購入。これで、フィルムや現像の費用を気にせず、たくさんシャッターを切ることができるようになった。「失敗作」は、データを消去してしまえばいいことも覚えた。
パソコンを触ったこともないが、プリンターをつなぐだけで、自宅で簡単に印刷できることも分かった。いまでも、「デジカメを発明した人には感謝したい」という。
今年3月からは、300ミリの望遠レンズ付きの一眼レフのデジカメに切り替えた。重宝しているのは、1秒間に5コマ撮影できる連写機能だ。
フィルム式なら、プロでもない限り使われなかった連写機能だが、デジカメなら、素人でもどんどん使える。そして、カワセミだけでなく、コサギやオオサギが飛ぶ姿を写真に収められるようになった。
写真サークルに入ったこともなく、まったくの独学で覚えた撮影のコツは、鳥を目ではなく、鳴き声を聞き分けて、耳で追うこと。それから、格好のいい姿を見せてくれるまでじっと待つこと。
普通に歩けば1時間とかからない道のりを、3時間ほどかけて往復することもある。
いまも、毎日100枚ほどの写真を撮る。その中から、お気に入りの作品だけを残す。こうして、これまでに消去されなかった作品は、1万点以上にのぼる。
地元商店街の人から「写真をホームページに使いたい」と言われれば、すぐに使ってもらうし、黒目川に生息したタヌキの一家の写真が、東久留米市市民プラザの会報の表紙を飾ったこともある。が、いちばんうれしいのは、自分の写真を見た地元に暮らす人が、「こんないいところに住んでいるとは知らなかった」と驚く瞬間だ。
そのときには、「私も知らなかったのよ、病気をするまでは」と答えている。
そして、住民自身が、「なにもない町」と形容することもある、この地を自慢できる仲間が、また一人増えることを願っている。
◇ぬくい・としこ 1944年、東京都北区赤羽生まれ。62歳。主婦。東久留米市金山町在住。現在は、夫と2人暮らし。
【取材記者・木瀬貴吉】
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