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われら隣人
第515回
原博実(FC東京監督)

 2007年1月14日、小平市内のFC東京練習場。ほぼ1年ぶりのトレーニングウエア姿で、約1000人のファンの前に現れた。
 02年、設立から4年目のFC東京の監督に就任。それまでの解説者時代から「ヒロミスタ」と呼ばれるファンを獲得してきた軽妙な語り口と明るい性格で、FC東京サポーターはもちろん、マスコミや他チームのファンからも慕われるようになる。04年には、同チームで初のタイトルとなる「ヤマザキナビスコ杯」をもたらした。
 しかし、05年に成績不振もあって退任。再び解説者となり、外から見た” 古巣”は、06年を13位という史上最悪の順位でシーズンを終える。
 そして、再就任の要請。
 一昨年には、約5000人のファンが集まった味の素スタジアムで、お別れの挨拶をしたばかりでもあり、ためらいもあったが、「地元のチーム」に必要とされていることを、素直にうれしく思った。 
 【取材記者・木瀬貴吉】

「おもしろいサッカー」再び

 30年前の春、早稲田大学に入学。釜本邦茂選手などを輩出したア式蹴球(サッカー)部に入部し、現在の西東京市東伏見の同大学運動場で学生生活を始めた。

 「大学の4年間、グラウンド脇の学生寮にいたから、東京といえば東伏見のことだった」と振り返る。

 卒業後は、練馬区内などに暮らしたが、1998年に、再び旧保谷市内に居を構えた。

 いまでは、妻の生まれ故郷でもあるこの町を、自分の地元だとも感じる。

 今回、FC東京の監督に再就任するにあたっては、他チームからも誘いがあった。

 しかし、かつての4年間自転車で通いなれた、西東京市内の遊歩道「やすらぎのこみち」や多摩湖サイクリングロードを再び通勤路にすることを決めた。

 1年間、解説者の立場でFC東京を見て、潜在力の高さを改めて感じたのが最大の理由だが、「小平に帰ってこられた」のは、さまざまな巡り合わせのおかげだと思う。

 ファンからは、十年の単位で指揮を執ってほしいとの声もある。

 しかし、「長年やっている監督は、タイトルを数多く取っている」と、冷静に分析する。

 その手本となるのが、イングランドの名門チーム、マンチェスター・ユナイテッドを率いるファーガソン監督だ。

 昨年、現地で同監督の就任20周年のセレモニーを見ることができた。その場で、老齢にさしかかった名物監督は、「過去のための派手なセレモニーはいらない。私が考えているのは、これからのタイトルをどうやって奪うかだけだ」とコメント。

 その言葉が強く印象に残っている。

 だが、“勝てばいい”という試合ではなく、「観客が見て楽しいサッカー」を信条にしているのも事実だ。

 ジュビロ磐田とFC東京で、多くの監督と接してきたベテランの金沢浄選手は、「原監督は、ハーフタイムのミーティングで、『来てくれているお客さんのためにもがんばろう』と言う。試合中にお客さんのことを考えている監督は多くない」と証言する。

 東京に住んでいれば、浦和でも横浜でもJリーグの試合を見に行ける。あえてFC東京の試合を見に来てもらうためには、見ておもしろいサッカーをしなければならないという思いは変わらない。いや、前回指揮を執ったときよりも、その思いは強くなっている。

 「スリリングで躍動感のあるサッカー」、「1点取ったら2点目、3点目を取りに行くような試合」が目標だ。

 もし自分が観客だったら、耐え忍んで1対0で勝つようなつまらない試合を見せられるぐらいなら、映画を見に行くと断言する。

 だから、想定するライバルは、Jリーグのチームだけではない。

 大都市の東京には、ラグビーも野球もある。スポーツ以外でもミュージカルの方がおもしろいとか、空調が利いている映画館の方が快適だという人もいる。「そういう人を視野に入れてサッカーをしないと魅力がないし、強くもならない」と。

 そんなふうに考えるようになったのは、スペインとの出会いがあったからだ。なかでもガウディやミロといった自由奔放な芸術家を生んだバルセロナの街とサッカーを愛する。

 昨年は、10回近くスペインを訪問した。

 「スペイン人の生活は、一日が長い。一日を楽しむという姿勢があって、人生を楽しんでいる。サッカーも同じ。勝敗だけでなく、試合とその後の語らいも楽しんでいる」と、その魅力を語る。

 前回退任した際には、今後の身の振り方を問われ、「家族とゆっくり食事したりして過ごしますよ」と答えていただけに、「仕事は家族のため。単身赴任なんてのは本末転倒」というスペイン人の考えにも共鳴する。

 その一方で、日本の指導者も海外へ出て行くべきとの持論も。

 多くの選手が海外へ挑戦することで日本のサッカーは成長してきた。となると、次は指導者。コーチや監督が海外へ出て行くことで日本はさらに成長するとの信念からだ。

 自身も、いずれは挑戦したいとの思いを秘めている。

 「ヒロミスタ」と呼ばれるファンを魅了するのは、率直でありながら温かみのある言葉の数々だ。

 FC東京の小平グラウンドでは、練習が常時公開されている。そして、練習を終えた選手たちは、ファンが待つスペースで、サインしたり記念写真に納まるのが慣例になっている。

 しかし、どの選手よりも多くの声を掛けられるのが監督であるところが、このチームの特色ともいえる。

 2月のある日も、見学に来ていた小学校3年生の男の子が、真冬とは思えないほど日焼けした監督に「どうしたらサッカーがうまくなりますか」と質問した。

 それに、「たくさん練習すること」と即答し、こう付け加えた。

 「大切なのはイヤイヤやるんじゃなく、楽しんでやること。練習をやらされてるうちはうまくならないから。自分から楽しむことを忘れないようにな」と。


◇はら・ひろみ 1958年栃木県生まれ。現役時代は、フォワードとして活躍。日本代表での37得点は、釜本、三浦知良に次ぐ歴代3位。2002年から05年までFC東京監督。昨年は、W杯ドイツ大会などの解説者として活躍した。西東京市在住。



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